どんなに寒くても



君の為ならいつまでも待ってるよ。











―君と僕と空と―











もう既に、皆帰ってしまった部室はガランとして、紙に滑らせるボールペンの音だけが響いている。
部屋に残っているのは、跡部と慈郎の二人だけ。
テニス部部長に任されている部誌に 跡部はその日の部活の練習メニューなどを事細かに書き込んでいる。
その傍で、慈郎は退屈そうに机に突っ伏していた。
時々ちらちらと、跡部の手元を覗きながら。
その様子を見ていた跡部は それまで動かしていた手をピタリと止めた。


「慈郎。退屈なら帰っていいんだぞ。」

「待ってる。」

「でもよ…。」

「俺邪魔?」
「そんなことねえけど、時間掛かるぞ?」


少し考えるような素振りを見せた後 慈郎は椅子から立ち上がり掛けてあったコートを手にとった。


「じゃあ、俺先行ってる。」

気が散るもんね と付け足して 慈郎は部室を出て行った。
一人部室に残った跡部は、妙な寂しさを感じつつ再び紙にペンを走らせ始めた。
今から急げば追いつけるかも そう思い手を動かすが、ふと思い出した、監督から渡されていた明日提出の書類。
書いておかねばと思い、書き終えた部誌を横に置き そちらにも丁寧に文字を書き始めた。
全て終わった頃には、慈郎が部室を出てから 既に30分が経とうとしていた。
今からでは追いつけないだろうと諦めて、帰り支度を始めた。
窓の戸締りを確認し、電気を消し部室の扉を開けると、刹那に流れ込んでくる冷たい空気に 跡部は身体を振るわせた。
外はもうすっかり日が落ちていて 冬の澄み切った空には幾つもの星が輝いていた。
冷たく、乾いた空気が跡部を包む。

鍵を閉めると、足早に、校門に向かった。
こんなことなら車を呼んでおくんだったと後悔しつつ、既に冷え始めた自分の手を、吐く息で温めながら。




校門まであと少しというところで ちらりと動く黄色い物が目に映った。
薄暗いなか、目を凝らしてみると 其処に居たのは、先程まで一緒に居た


「慈郎!?」


帰ったと思っていた慈郎が其処に居る。
跡部は慌てて駆け寄った。


「先行くって言ってたじゃねーか。」

「帰るとは言ってないもん。」


そう言い返す慈郎の頬に触れると、柔らかい肌はもう冷え切っていた。


「こんなに冷えちまって…。これでも捲いとけ。」


自分の首に捲いていたマフラーを取り 慈郎の首に捲く。


「跡部のマフラー温かいね。」

「ったく ほら、帰るぞ。」

「うん。ねえ、手繋ごうよ。」

「お前な…」

「いいじゃん、誰も見てないよ。」

「わかったよ。」


差し出した手を、慈郎が握る。


「うわっ 冷てえ」

「跡部あったか〜い」





そうして、空に光る星の下

二人は並んで、他愛もない会話をしながら帰路につくのだった。









寒くても 風が冷たくても


君と一緒なら


温かくなる




〜fin〜