俺の前でだけ、緩められる表情とか、

二人きりの時だけ聞ける優しい声とか、

俺にだけ囁かれる、頭に響くような甘い言葉とか。

全部

   全部





  ぜんぶぜんぶ君のもの






二人きりの部屋で二人きりの時間。
飯を食ってゲームして風呂入って…ああ、また入り直しやなぁなんて
ぼんやりと頭の片隅で思いながら、シャツを捲り脇腹を撫でる手を大人しく受け入れる。
俺の口の端から流れる唾液は財前のそれと二人分。
口内をかき回す熱い舌と、肌を這う冷たい手が同時に俺に刺激を与えて、ああ、あかん。心臓破裂しそう。


「謙也さん、めっちゃドキドキしとる。」


唇を離した財前の顔を目で追うと、切れ長の目、真っ黒な瞳で俺を見ていて、かっこええなぁなんて思ったら鼓動がまた早くなった。
財前の指先が俺の左の胸、心臓の辺りにトンと当てられる。
自分でよくわかっとる。心臓ぶっ壊れるんやないかって思うくらいに鼓動が速いことくらい。


俺がこないに緊張しとるのに、何でこいつはこんな澄ました顔しとんねん。




「当たり前やん…初めてやし…なんでお前そんな余裕あんねん…」

「余裕…?」

「なんや俺ばっかドキドキして、」

「何言うとるん余裕なんかないっすわ」


財前が、俺の頭を抱え込むようにして自分の胸に押しつけた。
触れた身体から、俺に負けないくらい早い鼓動が聞こえる。


「俺も同じ。謙也さんと同じっすわ」

「あはは…ホンマや、めっちゃドキドキしとる。」

「当たり前やないですか。」


謙也さんと繋がるんやから。なんて、耳元で囁かれて身体の熱が急激にあがった。
二人で笑い合って、見つめ合ってキスをして、中断していた行為を再開する。
シャツを脱いで曝け出された肌を財前の舌が這うと、それだけで背筋が甘く痺れて身体が震えた。


「あ…っ」


赤く熟れた胸の突起に吸い付かれ、自分のものとは思えない高い声が漏れる。俺こんな声出せたんやな……
めっちゃ恥ずかしい、女の子みたいやん。…て、これからもっと恥ずかしいことするわけで。
乳首への刺激だけでも脳まで痺れるような快楽が襲うのに、同時に与えられた下半身への刺激に身体が跳ねた。
初めての感覚。
自分でするのと違う、予想の出来ない動きに翻弄されて、なんやもうわけわからん。頭真っ白や。


「はっ…あんっ」


下着とスエットを一緒に下ろされて、膨らんだ俺のそれが目に入る。
羞恥で顔を背けると、財前が俺の自身を握りこんだ。


「あっ、あっん…」


俺の先走りで濡れた指が巧みに動いて、俺を追い詰めて。
声を押さえられなくて、高い声が引っきりなしに漏れる。


「ひっ、あ−ざいぜ…もっ…イクぅ!」

「ええよ、謙也さん。イって」

「ふぁっ…あっ、あぁぁっ!」


びくびくと身体が震えて、財前の手の中に精液を放った。
早いっすね なんて人が気にしとることさらりと言うもんやからとりあえずその真っ黒な頭をはたいておいた。
ちょっとムスッとした顔をした財前は、何も言わずに俺の太ももに指を這わせてきた。
思わずビクリと身体を強張らせて、彷徨わせていた手が掴んだシーツをぎゅっと握った。
イった直後で息も整わないうちに、その白濁に濡れた手が、奥まった場所に侵入してくる。


「あっ…う…」

「謙也さん、力抜いて…」

「ん…はっ…おん」


何度か深く深呼吸して身体の力を抜いていると、財前の細い指がさらに奥に入ってくる。
俺の放った精液が潤滑剤の役割を果たして滑りは良いけれど、何しろ経験したことのない行為やから違和感は拭えない。
それでも、何度か抜き差しを繰り返されているうちにだいぶ楽になった。
二本、三本と指を増やされても、慎重にしてくれてるからかそれほど痛くなくて、寧ろもっと強い刺激が欲しくて、もどかしさで腰が無意識に揺れた。
財前は挿し込んだ指を動かして俺の中をかき回す。
その指先がある一点に触れた時、爪先から頭まで、一気に駆け巡ったその腰が砕けるような感覚に、俺の喉から一層甲高い声が飛び出した。
自分でもなんだかわからなくて、思わず財前を見つめると、驚いたように見開かれていた目を細め財前は笑った。


「ここ、気持ちええです?」


グリグリとそこばかりを執拗に擦られて、俺の腰はびくびくと跳ねる。


「あっ、あっんぅ…あかん、そこ…擦っちゃぁ…っ」


経験したことのない、おかしくなりそうなほど強い快感に頭がついていかない。


「はぁっ、あっ、あぁっ!財、前…っ財前!も、あぁんっ!」


一度射精して萎えた俺のも、いつの間にか起ちあがっていて、垂れてきた体液で後ろもぐちゃぐちゃ。
室内に響き渡る水音と俺の変な声と財前の低い声と、全部が俺を興奮させて、この行為に溺れさせる。


「あっ、はぁっ…ああんっ!」

「ね、謙也さん…痛ない?」

「ん、あっ、へい…き…」

「入れて、ええ…?」

「ん…ええ、よ…」


そう返すと、財前の指が俺の中から引き抜かれる。カチャカチャとベルトを外す音が聞こえて音のする方を見ると、完全に起ち上がった財前のが目に入った。
あんなん、俺ん中に入るんやろか…。
よっぽど不安そうな顔をしてもうたらしく、財前は俺の顔を見てぎゅっと俺を抱きしめた。額にキスをされて何事かと思っとったら、ふんわりと笑う財前と目が合って心拍数が上がる。


「謙也さん、大丈夫やで、ゆっくりやるから。痛かったら言うて。」


自分だっていっぱいいっぱいのくせに、どんだけかっこええねんこいつは。
俺は、財前にやったら


「俺、財前のこと好きやから。せやから財前になら、痛くても、何されてもええ…から。」


言葉を言い切らないうちに押し倒され、背景が真っ白になった。
その真ん中には切羽詰まったような表情の財前が、熱っぽい瞳で見つめていて…、心臓ってどこまで早くなるんやろか


「あんま、煽らんといて…とまんなくなる。」

「ええて、とめんで」

「もう…後で泣かんといてくださいね」


財前のが、俺の後孔にあてがわれて少しだけ身体が強張る。
けど、落ち着いて、身体の力を抜いて、財前をちゃんと受け入れられるように。


「いくで…」


俺は力を抜くのにいっぱいいっぱいで、小さく頷くことしか出来なかったけど、それを合図に財前が腰を動かした。


「はっ…あぁぁぁっ…んぅ…っ」


結構慣らしたためか、思ったほどではなかったけど、それでもやっぱめっちゃ痛い。痛いけど…


「はぁっ、あっ、ああぁっ、んう…っ」


それ以上に嬉しくて、幸せで。
流れる涙は、生理的なものだけでなくて。


「はっ、あっん…あっ、ひか、ひかるっ」


自然と、普段呼ばない彼の名前を口にした。
それを聞いた財前の表情がめっちゃ嬉しそうで、俺はこの子に愛されとるんやって、ほんまにそう感じた。
財前かていっぱいいっぱいの筈やのに、財前は動かずに、俺の呼吸が整うのを待っている。


「謙也さん、大丈夫…?ほんまに、しんどかったら言うて」

「っは…ぁ…おん、平気、やから」

俺を気遣ってくれる。
愛しげに見つめられて、優しく頬を撫でられて、額に張り付いた髪をとってキスをされて。
俺は今ほんまに、ほんまに幸せや。

「はっ、はっ…あっ…光…っ」

「ん?」

「動いて…ええよ。もう、大丈夫やから…」

「謙也さん…」


財前は俺の目尻に溜まった涙を舐め取って微笑むと、ゆっくり腰を動かした。


「はっ…あっ!あぁ…っ、はぁっ」


最初こそ、喜びはあれども痛みを伴うその行為に顔を顰めていた。
けれど、ある瞬間からその痛みの中に、快感が混じり始めた。
それは財前の指が俺の中をまさぐっていた時と、同じ快感。いや、それ以上。
律動が早くなっても、もう初め程の痛みは感じない。
その分激しい快楽が襲ってきて、俺は男のものとは思えない声を上げて喘ぐ。
ここまでくるともう恥ずかしいとか考えている余裕などなく、ただただ財前を求めた。


「はっ、あっ、あ…っひかる…っ、光…ひか…」


財前の首に腕を絡めて、しがみ付くように抱き付いた。
もっと深く、財前と繋がりたい。少しでも、財前をより近くに感じたい。その一心で。


「あっ、んっ!ああっ!」

「謙也さん、可愛え」

「あっ、んぅ…ひかるっ、好き…っあ!」

「俺も、好きや…っ」


突き上げられるたびに財前が俺の身体の奥を突く。
痺れるような快感と込み上げる熱に翻弄されて、俺の頭の中は財前の事しか考えられない。
財前が好きや、このまま一つになってしまいたい。


「あっ!あぁっ!ひか…る、もっ、俺っ」

「俺も、謙也さん…っ」

「はっ…あぁぁぁ!!」


俺が達したのと同時に、俺の中で財前のがびくびくと動くのを感じた直後、熱いものが中に放たれた。
その熱を感じながら、俺は微睡みに落ちていった。










ふと目を開けると、目の前にあった穏やかな寝顔に息が止まる。
鼓動が早くなり顔が熱くなる。腰に回された財前の腕、密着する裸の身体。
財前は俺を抱き締めたままスヤスヤと眠っとった。
吐息が頬に掛かってくすぐったい。
財前が近い。触れた肌から財前の温もりが伝わる。
体温低いって言うてたけど、触れた肌はやっぱ温かい。
好きな人の肌の温もりがこんなに幸せやなんて、知らなかった。


「光…」

「謙也さん…起きてたん?」


眠っとると思っていたから、まさか返事があるなんて思わなくて、思いがけない反応に心臓が跳ねた。


「ざ、財前っ」

「光でええのに。」

「あ…じゃあ、光…」

「おん。めっちゃ嬉しいっすわ」


財前は俺の髪に指を絡めながら、空いている左手を背中に回してぎゅっと抱き締める。
俺の心臓もめっちゃ早いけど、触れ合う体から伝わる財前の鼓動もやっぱり早い。
俺と同じ。財前も今、俺と同じ幸せを感じてくれてるんだとしたら、めっちゃ嬉しい。


「謙也さん、身体大丈夫?」

「おん。ちょっとだるいけど、平気。」

「ほな風呂行く?」

「んー、もうちょいこのまま、くっついててええ?」

「謙也さんが望むなら、いつまででも」


一々財前の言葉に翻弄される俺も俺やけど、その台詞は聞き逃せなかった。
それは、俺が望んだら、財前はほんまにいつまでも傍に居ってくれるって、そう思ってええんやろか。



重い、と思われてまうんが怖くて、ずっと言えなかった。
財前が好き。生涯俺は、心も身体も財前のものでありたい。

でも、その逆は

――財前の心も身体も俺だけの、なんて。そんなん…――――




「謙也さん、なんかアホな事考えとるやろ」

「えっ!?」


心の内を読まれたかのような台詞に驚いて、声が上ずった。
これじゃあ肯定してるようなもんやんけ。


「顔が百面相してました」

「あ…その…」

「謙也さん時々勝手に突っ走りよるから」


胸の奥が、ズキンと疼いた。
やっぱ自惚れてたんや、俺。
いつまでもなんて、そんなん無理に決まってたのに。
財前かて、いつか別の人を好きになるかもしれん。
将来を誓うには、俺らはまだまだ幼くて……―――――


「やっぱ…せやんな……」

「自分ばっかが好きやとか、思わんといてくださいね。」

「……おん。…え?」

「俺は一生あんたを放したる気なんかないっすわ」

「…っ!?」


俯いていた顔をあげると、目の前にはにやりと意地悪く笑う財前がいた。
まるで俺の考えている事など何もかもお見通しとでも言うような。いや実際お見通されてたわけやけど。
何これつまりどう言うこと?これってつまり。


「俺の全部は生涯、あんただけのもんすわ。当然、あんたも俺だけのもんやろ?謙也さん。」

「あ、当たり前やん!」

そう返すと、俺はまた財前にぎゅっと抱き締められ…


「ちょっ!?光…?」

財前の手が不自然に俺の身体を撫で回す。
これは、もしかしなくても…


「ほんなら謙也さん、もう一ラウンドいきますか」

「いやいやいやいや無理無理…あっ!やぁ…んっ」




結局、身体は素直に反応してしまい俺は声が枯れるまでさんざん喘がされた。


次に目を覚ました時、身体は綺麗になっていて、事後の処理は全て済んどった。
俺は身体中痛くて動くことも出来なくて、財前はさすがにやり過ぎたと思ったみたいでやたら謝られた。
俺も一言くらいなんか言ったろかと思ったけど、やめた。何たって幸せやしな。

ほんまに俺は、相当こいつに溺れとるんやな。




全てを捧げても良いと思えるくらいに 俺はこの生意気な恋人に夢中なんやから。



〜fin〜