とある休日
招いた俺の部屋で久しぶりに一緒に過ごして、
他愛もない話をして、 ゲームやって漫画読んで…
そして
「光くん?どういう事やねん…」
「どういう事って、この状況見たらわかりますやろ」
「せやからなんで俺は押し倒されとんねん!今日はバイオ二人でクリアする言うたやんかぁ!!」
「あんた俺がどんだけ我慢したと思っとんのや!」
そう、俺を忘れた謙也さんは俺と恋人同士やってことをこの1ヶ月綺麗さっぱり忘れとった。
そのために俺は1ヶ月ろくに謙也さんに触れていない。
当然そういうコトもしていないわけで。
「もうあかん。同じ部屋に居ってちゃんと俺等の関係思い出しとるのにこれ以上我慢せぇっちゅうんが無理な話っすわ」
「せ、せやかて…」
「俺、ずっと謙也さんに触りたかったんすよ。でも謙也さんに拒否られんの怖くてキスもできんかったんや。謙也さんが足らん」
「なんや今日はえらいデレやんな…ツンはどうしたツンは」
「あーもううっさい」
やいやい喚く口を塞いで舌を差し込んだったらくぐもった声。久々の感触。
口内を丹念に舐め回したれば次第に抵抗する力は弱まった。
二人分の唾液を、謙也さんは喉を鳴らして飲み込む。
その頃にはもう謙也さんの頬は紅潮して目も潤んどった。
俺だけが知ってる、俺にだけ見せる表情。欲情しとる。
「ひかる…」
「謙也さん…な…あかんの…?」
耳元で息を吹き掛けるように囁けば、嫌とは言わないのを俺は知っとる。
小さく声を漏らして、謙也さんは降参したように目を反らした。
「ええよ…俺も、触ってほしい」
「ん、何処がええ?」
「何処でも、光の好きにしてええ」
甘えるように呟いた謙也さんは反らした視線を俺に戻して微笑んだ。
首筋に舌を這わせ、そのままきつく吸い付いて肌に刻む赤い跡は謙也さんが俺のやっていう印。
1ヶ月前につけたそれは、もう消えてもうたから。
「あ…っ光…っ。ひっ、あ…っ」
服の上から胸の飾りの片方を指で捏ねながらもう片方を舌で押したり歯で引っ掻いたりしてると、謙也さんの身体はびくびくと跳ねた。
濡れた白いシャツが透けて赤く熟れた突起がシャツの上からでも起ってるのがわかる。
快感に酔った謙也さんの表情も相まって、めっちゃエロい。
「光っ、光…も、そこばっか…」
「うわ、謙也さん下ももう勃っとる。ぐちょぐちょやん」
ズボンの中に手を突っ込んでみればそこはもう濡れとった。
下着の上から揉んでみるとどんどん質量を増して、窮屈そうやったからズボンと下着を一緒に剥ぎ取ったった。
期待するように震えるそれを、まじまじと見ていると、謙也さんは恥ずかしそうに足を閉じて前を手で隠す。
「光…っ」
「可愛え、謙也さん」
「…な、はよう…触って…」
潤んだ瞳で見つめながら切なげにそうねだる姿に一気に熱が上がってくる。
これが演技なら大したもんや。 けど、この人は天然。
素でこんなことを言ってのけるから質が悪い。
謙也さんは余裕ぶって見せていた俺の心に簡単に火を点ける。
1ヶ月も好きな人の傍に居ってなんもできんかったんや。
俺かて限界やっちゅうのに、そんなこと言われたら。
「俺、止まらないっすからね」
「ええよ…」
蕩けた表情で誘ってくる謙也さんが堪らなく可愛ええ。嫌々言うとった割にはノリノリやん。
けど、この1ヶ月間の俺の我慢を思うと、ちょっとだけ意地悪したい衝動に駆られた。
謙也さんのを握って弱い力で上下に擦ったる。
刺激が足りないようで、謙也さんは眉を下げて俺を見つめた。
「光…っや…もっと…」
「なぁ、謙也さん。1ヶ月どうしてたんです?」
「なに…が…」
「これ」
謙也さんのを握る手に、ちょっとだけ力を込める。
理解したらしく、只でさえ赤かった顔が更に赤くなった。
「あ…っ」
「まさか1ヶ月してないとかないやんな?何で抜いとった?」
「あ…っ、ひっ…光…も、堪忍…」
「なぁ…謙也さん…?」
誰の事を考えとったん?
エロ本の中の女の子?AV女優?それとも俺の知らない学校の女子?
謙也さんは、俺以外の誰を想っとった…?
「光…っ」
小さく呟かれた声にはっとする。
何しとるんや俺は。こんなんただの八つ当たり、みっともない嫉妬や。
「ごめ」
「光」
さっきよりも大きい声、真っ赤に染まった頬、熱っぽい瞳には情けない顔した自分が映っとった。
謙也さんは俺を嗜めていたのではなく、俺の問いに応えてくれていたらしい。
「え…」
「言うたやろ、あの時。…光のこと好きになったって。記憶なくなっても、俺は最初に会った時から光の事しか考えられなくなったんや」
「謙也さん…」
「思い出が消えて、まっさらになっても、俺は光に恋をした。せやから、他の人に、浮気なんかしとらん…」
「……それって、」
「あーもう堪忍したって光ぅ!!」
羞恥に耐えきれなくなったのか、とうとう謙也さんは顔を覆って顔を背けてまう。
ほんま、可愛え。
「俺と、こうしたいって思っとった?」
「あ…っ、んっ」
「俺に触ってほしいって」
「ひあっ、光…っ!はっ、ああっ!!」
謙也さんの好きなところを撫でたり、強めに扱いたりしたったら、掌に熱い感触。
数分と持たずに達した謙也さんのそれは濃くて、ほんまに自分でしとったんかと思うくらい。
「謙也さん、溜まっとったんちゃう?」
「あ…やって…自分じゃ、光とする時みたいに気持ちよくできんくて………あんま気が進まんくて…」
潤んだ瞳で見上げられて鼓動が跳ねる。
「光やないと…俺……」
せやからそれは反則やって…どうなっても知らんからな。
「なら、俺が気持ち良くしたりますわ」
「ん、あっ、光っ」
奥まった場所に指を這わせ押し込むと、俺の指が謙也さんの体内に納まっていく。
けど、久しく受け入れていないそこはすんなりとはいかないみたいで。
俺は痛みがないように、慎重に入り口を解した。
「は…っ、う…あ、っ」
「謙也さん、痛い?」
「平、気…ひあっ!」
「ここ、触られんの久々やろ?」
「あっ、あ…っ、や、も…はよう…ひっ、ああっ」
彷徨うように伸ばされた腕が俺の首に絡んで、謙也さんは切なそうな顔して俺を見る。
この表情に、俺は弱い。
この表情で強請られたら何でも願いを聞いてまう。
理性もプライドも全部どうでも良くなって、謙也さんを求めてまう。
「光…はよ、いれて」
「っ謙也さん」
性急に硬くなった自分のを謙也さんの後孔に押しあてて、そのまま中に押し入る。
中は熱くて、謙也さんが俺のに絡み付くように締め付けて、めっちゃ気持ちええ。
「はっ、ああっ!光…っああ!んあぁっ!!」
「謙也さん、えぇ?」
「ひゃうっ、んっ、あっ!あっ、光…っ ひかる…っ!!」
何度も、何度も名前を呼んで、謙也さんはぎゅうって抱きつく様に俺に絡めた腕に力を込めた。
1つ名前を呼ばれる度に、胸が熱くなる。愛しさでいっぱいになる。ほんまに、嫌いやなんてどの口が言うたんや。
愛しとる
謙也さんを愛しとる
誰よりも愛おしい、俺の恋人
「謙也さん…っ、好き…好きや…愛しとる…っ、もう…何処にも行かんといて…っ」
「うん…行かん…光と、ずっと一緒や」
「謙也さん…っ」
「ひぁっ!ひか…っ、ああっ!! もっ、あか、イく…っ」
「俺も…っ」
「―――――――――っ!」
謙也さんの身体がビクンて跳ねて、その瞬間俺のを締め付けてきたから、俺もその衝撃で中でイッてもうて
ヤバイやってしもたて思ったけど、謙也さんは一度力が抜けて離した腕を再び伸ばしてきて首に絡めた。
そのままお互いに引き寄せあうように唇を合わせて深いキス。
唇を離すと、うっとりとした瞳で見つめられた。
とりあえず怒ってはいないみたいやけど、あかん。そんな顔されたら…
「光…足りひん…もっと…」
ああ、とどめや。
「ん…」
「謙也さん…大丈夫?」
「あ…、無理、腰痛くて動かれへん」
謙也さんはベッドに身体を沈めたまま動こうとしない。
そりゃああんだけすれば動けなくもなるやろな。
肌を晒したままで、首筋に散った赤い痣が俺を煽るけど、これで更に手出したら今度こそ口も聞いてもらえなくなりそうや。
必死で自分の欲望を抑えながら謙也さん身体を拭ってると、不意に腕を掴まれて引き寄せられた。
そのままぎゅっと抱き止せられる。
目の前には俺のつけた赤い痣、つまり謙也さんの胸にくっついてるわけで。
動けないんやなかったんか。
この人俺の我慢をなんやと思ってるんや。
俺がこのままもう一発やりたい衝動と闘っていると、頭上からクスクスと笑い声が聞こえた。
見上げれば何だか嬉しそうな顔の謙也さん。
つい訝しい顔をしてしまう。けど、謙也さんは楽しげに笑うだけ。
「謙也さん…」
「すまん…つい」
「なんすか」
「せやって、こんなん久々やん。俺この間までずっと片思いや思ってたし」
「くっつきたいんやもん」とか言いながら、犬かなんかみたいに頬を擦り寄せてきた。
「…謙也さん、覚えてはるんですか…?」
「うん?何を?」
「記憶失くしとった時にあったこと」
「おん。覚えとる。光がずっと傍に居ってくれたことも、俺を大事にしてくれてたことも」
謙也さんはそう言うと、更に強く俺を抱き締めた。
謙也さんの身体から伝わる熱、耳元で聴こえる声、謙也さんの匂い。
全部が愛しい。
もう二度と触れられんと思っとった。
手放すしかないんやと思ったら苦しくて、悲しくて…。
「なんやろな…長い夢から覚めたみたい」
「アホなこと言わんといて。あれを夢で済まされたらなかわん」
もう二度と、あんな思いはしとうない。
好きな人の記憶の中から、自分が居なくなるなんて。
「はは…堪忍。でも、光」
「…なんすか」
「もし、また同じ事になっても、俺は光を好きになる。何べんでも、光に恋をする」
「……」
「何べん頭の中から消えても、光を好きな気持ちは消えないから」
ほんま、アホやこの人。
あんまりアホなこと言うから、俺は不覚にも、少し泣いてもうた。
謙也さんの匂いに包まれて、謙也さんに抱き締められて、幸せに包まれて。
こんなにも愛しいこの人を、嫌いやなんて、もう嘘でも言わん。
もう二度と傷付けはしないと誓いながら、お互いを確かめあうように、抱き合って眠った。
―どうか忘んといて、謙也さん
俺は、この先何があっても、
あんたのこと愛しとるから―――
〜fin〜