何だってこんなことになっているのか。
目に映る服はひらひらのエプロンドレス。
所謂メイドさんが着とるようなあれや。
黒をベースにした木地に白のレースがあしらわれたドレスを来て、俺の上にのしかかっているそいつは、
俺よりずっと華奢な体つきと綺麗な顔立ち、さらにメイクにより見た目は何の違和感もない美少女になっているが。
その姿とは裏腹に、熱っぽい欲情した男の表情で俺を見下ろしとる。
その真っ黒な瞳に映っているのは、全く同じ格好をしていたはずなのにとてもそうは見えない自分の情けない姿。
ドレスの裾はたくし上げられ、腹まで見えて、前を止めていたボタンは外され胸は露出しているのに、
ワンピースになっているドレスは完全には脱げず俺の腹と胸の間でぐしゃぐしゃになっている。
そのドレスの向こう側には、そそり立つ男の証が蜜を流していて、なんて間抜けな姿なんや俺…。















そもそも俺等はこんなプレイをするためにわざわざ家にまで持ち込んでメイド服なんぞ着たわけやない。
学園祭でやる出し物の衣装合わせと、メイクの練習をしていたはずなのに。
それだけだったはずなのに…。


「はあっ、あっ、財前…もう、や…め…っ」

キモいだのケバいだの言ってじゃれていたのもつかの間。
雰囲気が生々しくなり始めて、俺の身体に触れる財前の手つきがやらしくなってきて。
やばいと思った時には既に、財前に押し倒されていた。
一応抵抗を試みたものの、抗議しようとした口を財前のそれで塞がれ、熱い舌に口内を掻き回されれば抗がえる筈もなく、たちまち身体から力が抜ける。
唇が離れた時には、もう身体は素直に反応していた。

「あっ、やめ…あかん…財前…っ」

「そう言う割りにはノリノリですやん。ここ、ひくひくしとるで。」

つんと後孔を指先で突くように触れられて、それだけで身体が跳ねた。
自分でもわかってる。
触れられるだけの刺激がもどかしくて、財前を今すぐにでも受け入れたいって心が悲鳴をあげてるのが。
繋がりたいのは俺も一緒や。
けど、それを抑えているのはなけなしの理性。
借り物の服を汚したらあかんって、俺は必死に裾を掴んで体液がつかないように努めているから、下手に動く事も出来なくて。
中途半端に刺激されたまま放置されている自身は張り詰めたまま。

「スカートってはいたまま出来るからいいっすね」

「いいわけないやろどアホぉ!借りもんやぞ!?汚したらどないすんねんっ!?」

怒鳴ってみても今の俺じゃ凄味なんて少しもなくて、いや、こいつはいつでも俺の抗議なんか聞いた試しがないが、それにしたって今回はまずい。
汚したらほんまにまずいって俺は必死なのに。

「ああっ!」

そんな俺の必死にはお構いなしに唾液でたっぷり濡れた指を入れられて、唯一の抵抗だった言葉も、もう紡げない。
財前を受け入れることに慣れた身体はその細い指くらい、簡単に飲み込んでしまう。
二本、三本と、本数を増していく指の数、俺の性感帯を、財前はとっくに知っている。
中に入った指は的確に前立腺を突いてくる。
その度に背筋を走り抜ける快感に、身体はびくびくと跳ねて興奮は高まっていく。

「はあっ、あっ、ひあっ、うっ…ああっ」

中を掻き回されて頭が真っ白になりそうや。
それでも、白石の言葉が吹っ飛びそうな理性をつなぎ止めていた。
『これ借りもんやから、後でちゃんと返すんやで。絶対汚さんといてな』


(汚したらあかん、汚したらあかん、汚したら……)

「財、前……っ、お願い…お願い、やから…脱がせて…っ」

情けなく涙を流しながら懇願する。
もう羞恥も何もない。俺の心も身体も財前を求めとる。
普段ならとっくに財前を受け入れて熱を確かめ合っとる頃や。
俺かて早く財前と繋がりたいのに、こんなん着とったら

「抱きしめ、られん…やんか」

「―――――…っ!」

泣きながらそう言うと、財前が慌てたように指を引き抜く。
突然刺激を止められて燻った熱は身体の中を今も駆け巡っとる。
朦朧とした意識のまま顔を見ると、向けられた表情にはさっきまでの余裕はなくなっていた。

「謙也さん、あんたって人は…」

「財前…」

「ほんま、適わんわ…」

手を拭った財前は俺が掴んでいたスカートの裾を持って、精液がつかないよう頭から引き抜いた。
そして財前も、自身が着ていたドレスを脱ぎ捨てる。
服を着ていると華奢に見えるけど、露になった身体は程よく筋肉がついていて、力強い腕で抱き締められた。

「財前…っ」

俺もしがみ付くように腕に力を込めて、我慢してた時間を埋めるようにくっついた。
肌の感触、財前の体温を感じられるのが嬉しくて堪らない。

「謙也さん、可愛え。」

「財前、はよう…」

「おん、今…」


後孔に財前のがあてがわれるのを感じて、俺は財前を受け入れる為に身体の力を抜く。
待ち望んでいたその感覚に身体が震えた。

「はっ…ああっ!財、前…財前…っ」

「…っ謙也さん」

財前が俺の中に入ってくる。
散々弄り回されたせいか、痛みは少ない。
それどこれか、奧が疼いて、気持ちばかりが逸る。
もっと奥まで、その熱を感じたい。
全てが収まっても、財前は俺の呼吸が落ち着くのを見計らっているのかじっと動かずに居る。
普段意地悪なくせに、こういう時は優しいんや。

「光…」

名前を呼ぶと、財前ははっとしたように目を丸くして真っ黒な瞳に俺を映した。

「動いて、ええよ…も、平気…」

「謙也さん……おん、いきますよ」

「んっ、あぁっ!光っ!光…っ!」

「謙也さん…可愛い。めっちゃ可愛い」

伸ばした腕を財前の背中に回して、しがみ付くように抱き付くと、財前は応えるようにキスを落として激しく腰を打ち付けた。

「あっ!あっ、ひあっ!あぁぁっ!」

「謙也さん…っ!」

「はっ、あんっ!光っ、も、俺、あかん…っイク!んっ、ああっ!」

弾けた熱は勢い良くとびだし、俺と財前の腹を汚した。それとほぼ同時に俺の中に広がる財前の熱を感じて、財前も絶頂を迎えたのだと知る。
どちらからともなく口付けて、お互いの体温を確かめ合うように抱き合った。






後処理を済ませて気が付けばとっくに日は落ちて夕暮れになっていた。
下着だけ履いてベッドに潜り込んだのはもうずいぶん前。
汚してはおらんけど、脱ぎ捨てたドレスはそのままで放置されとって後で絶対皺になって怒られるやろな、と頭の片隅で思った。

「謙也さーん、機嫌直してくださいよ〜」

後ろから聞こえる間延びした声は無視して布団を被ったままその声の主に背を向ける。
少しは反省すればええんや。

「謙也さん…」

「……」

「寂しいっすわ…」

「………」

「謙也さんのこと抱きしめたい…」

「……っ」

「ごめんなさい…俺のこと嫌いになってしもたん…?」

「ならんっ!!」

光の不安げな声に思わず布団を跳ね除けて飛び起きると、光はしてやったりとでも言いたげな顔でニヤリと笑った。

「やっと出てきた。遅いっすわスピードスター?」

「〜〜〜っ」

悔しくて座ったまま再び背を向けていると、財前が背後から近付いてきて二人分の重さを乗せたベッドが軋んだ。
そのまま背中から抱きしめられて、財前の肌の温もりを直に感じる。
普段は低めの体温やけど、行為の後のせいかいつもより熱いその身体をぴったりとくっつけられて、不覚にも嬉しくて頬がゆるんだ。
触れ合った肌から心音が伝わって、怒りがどんどん溶けて消えていってまう。

「謙也さん、ごめんなさい。許して?」

「……ずるいわ。」

そんなんされたら、許さんなんて言えへん。

「……俺のこと抱き締めたら、許したる」

財前の方に向き直って手を広げて見せると、財前はきょとんとした顔を見せる。
なんや。何か言えや。はずいやないか。

「……謙也さん、可愛すぎっすわ」

可愛えんは自分の方やろ。
さっきなんかどう見ても美少女やったやないか。

「身長でかいし見た目ヤンキーや言われる俺に可愛えとか…言うんお前くらいやで……」

「やって可愛いもん。はい、ぎゅー」

「ん…」

財前が正面から抱き締めてくれたから、俺も財前の背中に腕を回す。
くっついた胸から互いの心音が交ざりあっていくようで、俺はこの時がめっちゃ好き。
財前も、俺にドキドキしてくれてるってわかるから。
傷んだキッシキシの髪を梳かすように撫でられる。
そして宥めるように背中をとんとん優しく叩く。小さな子にしているみたいやけど、嫌やないから不思議や。
俺年上なんやけどなぁ……。

「機嫌、直してくれました?」

「アホ……とっくやわ。」

「知っとる」

2人で笑い合いながら、そのままベッドに寝転んだ。

「なあ、メイクの練習結局あんま出来てへんけど。わざわざ服まで借りてきたのに」

「ん?あーええんちゃいます?あんなんで。」

「せやけど、んっ…んぅ…」

それより、と、まだ喋ろうとした口を財前の唇で塞がれて、もうどうでもよくなった。
深い口付けに酔い痴れる今の俺は、翌日知らされる衝撃の事実など、微塵も想像することなく。
財前の手によって与えられる下半身への刺激に、素直に溺れていったのだった。



翌日、せめてと綺麗に畳んだメイド服を持って学校に行った。
財前はあんなんでええって言うたけど、出来なくて後で困るのも、と思い、この手の事に一番詳しそうな小春に相談することにした。

「メイクの練習?そんなんええのに、アタシがしたるんやから。クラスの女子も協力してくれるし」

「は?」

「アラ、聞いとらん?光に言うてんけど。メイクなんかでけへん言うから、心配せんでええよって。」

「な、に……」

「あらその服、昨日光が借りる言うてたけど謙也クンが持ってきたのね?」

「ハメよった……」

「うん?」

「光ぅぅぅ!!」

「……あらまあ。」

血が上った頭では、自分の行動で勘のいい小春に全てを語ってしまっていたことを気付けないまま、俺は怒りに任せて2年の教室に向かって突っ走っていた。


そして数分後には、可愛い恋人に「謙也さんとコスプレエッチしたかったんすわ〜」等と飄々と言われて首を傾げられて、また許してしまうのだった。







つーかそんな嘘つかんでも最初から言うとったらお前の頼みならなんぼでも着たるっちゅう話や!


〜fin〜