イルミネーションなんか目じゃないくらい、あんたの瞳が綺麗やったから。
あんたが居れば他のことなんて、周りの目なんてどうでも良かった。
もうずっと前から、そう思ってた。






「光!光!あれ何?」

テレビの向こうのキラキラを指差して、それ以上にキラキラした瞳で謙也さんは言った。

「ああ、クリスマスツリーっすわ」
「こないだまで無かったのに最近よう見かけるなぁ」
「冬の間、12月25日のクリスマスまでの期間限定のイルミネーションなんです」
「クリスマス?」
「はい。元は外国の風習で、ほんまは24日の夜、クリスマス・イヴから25日のクリスマスの朝に掛けて神様の誕生を祝うっちゅう日ぃなんすけど、まあ日本のクリスマスはごちそう食ってケーキ食ってプレゼント貰って…一種の祭りみたいなもんですね」
「へぇー」

謙也さんは尚もキラキラと興味深そうな瞳を画面の向こうに向けている。
テレビの中ではクリスマスに向けたデートスポットの紹介をしたり、クリスマスプレゼント向けの商品を紹介したり、クリスマス一色や。

「ええなぁ」

ぽつりと謙也さんがそう呟いた。

「ん?何がっすか」
「デート、やっけ?ああいうん。ええなぁ」
「したいですか?」

そう問い掛けると、謙也さんはぱっと顔を輝かせた。

「ええの?」
「ええですよ」
「したい……な、デート。クリスマスに…光と……」

謙也さんはおずおずとそう口にする。
その様子に思わず顔が綻んでまう。
謙也さんが自分の希望を口にしてくれるようになったんはここ最近のことや。
長いこと他人のために生きてきた謙也さんが自分の願いを俺に言えるようになったこと、それがたまらなく嬉しい。
考えるまでもなく頷く。

「ええですよ、どこ行きましょうか」
「えっと、ライトアップしたでっかいツリー見に行きたいねん」

ころころと表情を変える謙也さんが堪らなく可愛らしい。
もともと、クリスマスはデートに誘う予定やったし謙也さんが行きたい場所がある言うなら願ったり叶ったりや。

「ほな夜はそこ行きましょ」
「夜は?」
「昼間は俺が謙也さんエスコートするんで」
「え…えええっ!?」
「なに驚いとるん」
「やって、めっちゃデートっぽい…うわぁ…楽しみや…」

こんなことでこんな喜んでくれはるんならもっとはよそれっぽいことしたらよかったかもと思ったけど、初デートがクリスマスっちゅうんも悪くないな。

「ほな1時に駅前の時計の下な!」
「…ん?なんで?家から一緒に行ったらええやないですか」
「やって、俺ら一緒に住んどるし、待ち合わせしたことないやん?」
「……」
「デートっぽいかなって……」

待つのなんか一番苦手なくせに。
ほんま可愛えなこの人。

「あ、嫌やったらええねん……」

そう言えばこの間休日のデートスポット特集みたいな番組を食い入るように見てたのを思い出す。
リポーターに話し掛けられる待ち合わせ中っぽい人らの顔を、目を輝かせながら見とったな。
尻尾を下げた犬みたいな謙也さんをみとったら、あかんとも言えんわ。

「ええですよ。1時に時計台の下っすね」

そう返すと、謙也さんはぱっと目を輝かせて笑った。

「おおきに!」


そして当日
俺との待ち合わせのために出かける謙也さんを玄関まで見送りに行く。
行き一緒やと待ち合わせの意味ないし、寄り道するから早めに出るっちゅうから俺は後から出ることにした。

「ほな先行くから、後でな!」
「はい、また後で」

いつもと逆やなと思いながら、出掛けていく謙也さんの背中を見送る。
部屋に一人になってから俺も出掛ける準備を始めた。
言うても持ち物は予め準備しとる。
もう何度も確認した鞄の中身や今日の予定をもう一度確認してまう辺り、俺も大概浮かれとるわ。
そんなことを考えながら、外出用の服に袖を通した。





ちょっと早めに出て街を眺めながら待ち合わせ場所に向かう。
そういえば、家の外で謙也さんと会ってどっか行くんは初めてや。
謙也さんの言った通り、どっか出掛けるときは最初から一緒に居るから、俺らは待ち合わせなんしたことがない。
街中のショーウィンドウに映った自分の姿を見て、思わず身嗜みをチェックする。
一緒に住んどって毎日顔合わせて、髪ボサボサな寝起きも徹夜明けの顔も、緩みきった姿は散々見られとるのに……こういう時、少しでもカッコよお見られたい思うんやから恋愛っちゅうんは不思議なもんや。
そうこうしとるうちに待ち合わせ場所にたどり着く。
遠くからでも目立つその姿を見つけて声をかけながら近寄ろうとした。

「謙也さん」

けどその前にいる誰かに気付いて、思わず足を止めた。
待ち合わせ場所に佇む謙也さんは黙っとったらそりゃあかっこよく見えるんやろ。
俺からしたら可愛くしか見えんが、金髪に切れ目、整った顔立ち、スラッとした長身。
服は俺が見繕っとるんや、センスは悪くはないと自負しとる。
どうみてもイケメンの部類に入るんやろな。
そりゃ逆ナンもされるわな!
通りがかった二人組の女子に話し掛けられる謙也さんを見て心穏やかでいられる筈がない。
やっぱ一人で待たすんやなかった。

「よかったらどっかでお茶でもしましょうよ〜」
「えっと、人と待ち合わせしとるから……」
「彼女さんおるんですかぁ?」
「? 彼女?やないけど……」
「うちらも二人やしお友達なら一緒に」
「恋人やねん」

割って入ろうとした瞬間、謙也さんは満面の笑みでそう言い放った。
マジか。既に謙也さんの目の前に駆け込んでもうた。
見ず知らずの他人相手とはいえこの発言は男同士で付き合っとる事を宣言したも同然。
なんやけどそれは気まずいやら恥ずい以上に嬉しかった。
臆面もなく俺を恋人と言ってくれた。
ここで否定したら、謙也さんの気持ちまで否定することになる気がする。

「……すんません、この人俺の連れなんで」
「えっ、あ……」

たじろぐ二人組を後目に、その手を掴む。

「光」
「行きましょ、謙也さん」
「あ、おんっ」

俺に手を引かれて歩き出した謙也さんが隣に並ぶ。

「すみません、結構待ちました?」
「全然!さっき来たとこやし」

そう言って、クスクス笑い出す謙也さんの顔を見たら、えらい楽しそうやった。

「どないしたんすか?」
「んー?デートやなぁって」
「デートっすね」
「ん」

謙也さんが俺の手をきゅっと握り、ニコニコしとる。
繋いだ手の温かさが伝わってきて、心から幸せな気分になる。
そんな幸せな空気を不粋な声がぶち壊した。

「何あれ、男同士で手繋いどるやん!」
「ほんまや、ホモなんちゃう?」
「ないわ〜」

ゲラゲラと下品に笑うその声の出所はなんや地べたに座ってたむろっとるだらしない格好した3人組やった。
謙也さんはその言葉が俺らに向けられたものやと気付いたらしく、パッと手を離した。
けど、言葉の意味をいまいち理解できないらしく、困惑した表情を浮かべとる。
なんやねんあいつら。
俺は思いっきりその連中を睨み付けてやる。
せやけど下品に笑い続ける連中は動じる様子はない。
と、突然どっからか烏が飛んできてそこらに散らかっとるごみを掴んで連中の頭の上からばら蒔くように落とした。

「な、なんやこいつっ!」

振り払っても何度もゴミを掴んでは落とし続ける烏にやつらは埒が明かないと思ったのか落ちてくるゴミを持って走って逃げてった。
烏は追いかけるでもなく側の街灯に止まると、最後に威嚇するように連中に向かって一声鳴いて飛び去った。
なんやったんや。まあなんでもええわ。

「あの烏…」

謙也さんが何か言いかけたけど、これ以上今の出来事を気にさせたくない。
俺は謙也さんの手を再び握り歩き出した。

「あ、光…っ、手…」
「気にせんでええです。俺らはなんも悪いことしとらん」

顔を見ると、謙也さんは眉を下げて明らかに悲しげな顔で俯いとる。
さっきまであんなに楽しそうにしとったのに、あんな連中にその笑顔を奪われるなんて…ほんま最悪。

「なんか、変なことしてもうたんかな…俺……」

暫く歩いた頃、ポツリとそう呟いた声に足を止める。

「手…繋いだらあかんかったんかな……」
「大丈夫です、謙也さんはなんも悪ない。あんな奴らの言うことなんか気にせんでええですよ」
「光……」
「せっかくのクリスマスなんやから楽しみましょ。次どこ行きたいっすか?」

そう言うと、謙也さんはそれ以上言及せんと漸く笑顔を見せてくれた。

「えっと、クリスマスはケーキ食べるんやっけ?ケーキ食べ行こ!」





洒落たデザインの木の扉を開け、甘い香りに満ちたこれまた洒落た内装の店内に足を踏み入れる。
店内は見事に女子かカップルだらけや。

「どれがええかなー?」
「俺これにします」
「あ、それええな。でもこっちも…」
「ほな別の頼んでちょっと交換しましょ。それでどっちも食べられるでしょ」
「ええな!うん、ほな俺こっち」

ケーキを頼んで席に座ると、謙也さんは興味深げに店内を見渡しとる。
そんな謙也さんを見つめる俺。
その間に、ぬっと影が現れた。

「お待たせいたしました、チョコレートケーキのお客様」
「あっ、はいっ!俺です!」

ぴっと勢いよく手を上げる謙也さん。
可愛らしい内装をバックにきらきらと楽しそうな瞳でケーキを見つめる姿はほんまに可愛らしい。

「モンブランのお客様、失礼致します。こちらセットの紅茶でございます」

手際よく配膳を済ますと店員は笑顔で去っていった。

「へー…ほぉー……」
「謙也さん、見とらんと食べましょ」
「あ、せやな」

いそいそとケーキに手を伸ばして一口。
それを見て俺も自分のを口に運ぶ。

「あ、うま…」
「これもうまー」
「ここね、結構ネットでも評判ええんすわ」
「そうなん?確かに美味いわ。ほな光、こっちもどーぞ」

フォークで切り分けたケーキを俺の口の前まで運んで、それはもう邪気のない笑顔でそう言った。
これはもしかしなくても口を開けろと言うことか。そういうことやな。

「ん…」

口を開けて差し出されたケーキを頬張ると、甘過ぎない味と柔らかな感触が口に広がる。

「ほな謙也さんも」
「ん」

切り分けたモンブランをフォークに刺して謙也さんの口元に差し出す。
謙也さんが嬉しそうに口を開けた、その時。

「え、あれマジ?」
「やー罰ゲームかなんかやろ?男同士て」

ヒソヒソ話しとるつもりか知らんが丸聞こえや。
当然謙也さんにも聞こえたわけで……つい今しがたまで嬉しそうだった表情が途端に曇った。

「あ……ごめん光……俺またなんかあかんことした?」
「…………」

声の出所に向かってこれ以上ないくらいの睨みをきかせたると慌てて視線を反らす。
睨まれてビビるくらいならくだらんこと言うなや!

「光……?」
「ほら謙也さん、口開けて」
「で、でも…」
「気にせんでええですよ」
「ん…」

差し出したケーキを口に含んで、謙也さんは控え目に笑った。








それからあまり会話は弾まずに店を出た。
きっと自分が言うことやすることで周りからなにか言われるんが不安なんや。
他人の感情に敏感な謙也さんやから、悪意や好奇の声を向けられて不安になるんは当たり前のこと。
何かを考え込むように隣を歩く謙也さん。
その顔に笑顔はない。
せっかくあんなに楽しみにしてたデートやのに、なんでこんなことになるんや。
俺らはただ、好き合ってるだけやのに。
つい苛立ちを露にして足を進めると、謙也さんは俯きながらついてくる。
どうしたら、また謙也さんを笑顔に出来るだろう。
謙也さんに喜んでほしくて計画した今日のデート。
なのになんで、謙也さんにあんな悲しい顔をさせてまうんや。

「……ぁっ」

そんなことを考えとったら、後ろから小さな声が聞こえた。
振り返ると、謙也さんは上の方を見上げて立ち止まっとった。
心なしかどこか辛い光景を見るような、傷付いた顔をして足を止めたまま動かない謙也さん。
俺はその表情に驚き声をかける。

「謙也さん?」
「ごめん……光……」
「え、何謝って」
「俺、何も知らんくて……ごめん……ごめん……っ!」

それだけ言うと、謙也さんは走り去ってしまった。
引き止める間もなく人混みに消えた謙也さんを追いかけようとして足を止める。
謙也さんは走り出す前何かを見てた、それを確かめようと俺は謙也さんが見ていたものに目を向けた。

「……っ」

それはブライダルフェアを告知する街頭ヴィジョンやった。
画面に映る、結婚式を挙げキスをする幸せそうな男女の姿。
俺たちが築いた関係を思わせる画面の中の二人。
けれど俺らとは決定的に違う二人。
それを見て謙也さんは気付いたんや。
自分たちが世間一般の恋人たちと違うことに。
慌てて踵を返して謙也さんが走り去った方向へ走る。
あの人は今、どんな気持ちで……。





「くそっ」

謙也さんとはぐれて数時間、謙也さんが行きそうな場所を必死に当たるが見付からない。
家にも帰っとらんしどこ行ったんやあのアホ。ごめんってなんやねん。
謙也さんが俺の元へ来たことか?俺を好きになってくれたことか?自分が男の姿やからか?
あの人のごめんの意味をどれだけ考えてみても一個も謝る必要なんかない。

「まさか……」

一個だけあった。俺が許せないこと。

「消えるつもりやないやろな……」

血の気が引くのがわかる。
寒さのせいだけやない、身体が震えて指先から冷たくなる。
今謙也さんが人でいられるのは謙也さんが望んだあの瞬間に奇跡が起こったからや。
もし謙也さんが元の人形に戻ることを望んだら、その時謙也さんはどうなるのか。
もし、もう一度その願いが叶ってしまったら。

「冗談やないっ!」

こんな終わりかたあってたまるか!他に謙也さんが行きそうな場所を必死に思い浮かべる。

「せや、ツリー……」

謙也さんが行きたいと言ったクリスマスツリーはここから少し離れたとこにある。
あの人まだこの街から一人で出たことないはずやけど、今日を楽しみにして行き方も調べとったはずや。
もし違ったら…一瞬不安が過ったけど確信めいたなにかがあった。
彼はきっとあそこに居る。




照明が消えたクリスマスツリーの下のベンチにぽつんと一つ人影があった。
暗がりでも僅かな街灯の灯りが金色の髪を光らせて、俺にその居場所を教えてくれる。
間違いなく探しとった人や。
そっと近づくと、その肩が震えとるんがわかった。

「謙也さん……」

びくりと肩を震わせて振り返った謙也さんは、明らかに泣き腫らした目をしとった。

「光……っ」

後ろめたいことがあるかのように視線を反らして、謙也さんはまた縮こまるように背中を丸めて俯いた。

「…………前から、おかしいなって思っとったんや……けど、考えんようにしてた……テレビでも街中でも、俺らみたいな恋人同士ておらんくて…」
「謙也さん……」
「人間になれば、光に恋することも許して貰えるかもって思っとった……けど人間でも人形でも、俺には端から光に恋する資格なんかなかったんや……っ」
「謙也さんっ」
「光の恋人になる資格なんかっ、一緒におる資格なんか、俺には最初からなかったんや」
「謙也さ」
「でもっ!」
「……っ」
「ごめん……ごめん光……俺もう、光から離れられへん……ワガママでごめん……っ」

謙也さんが溢した言葉は俺の考えとったものとは違うとった。
そしてそれは、俺がそうであったら良いと望んどった言葉でもあった。
小さく震える謙也さんの肩を抱き胸に寄せると、謙也さんは小さく声を漏らす。

「光…っ」
「わがままやないです…っ、資格なんて要らん。性別とかそんなん、俺はもうとっくに吹っ切っとる。謙也さんの姿が男やなんて見たらわかる。その上で謙也さんを好きになったんです」
「でも、でも……普通の恋人にはなれんし…今日みたいに光に嫌な思いさせるんちゃうん……」
「あんなん言わせといたらええ。謙也さんと一緒に居れんくなる方がよっぽど嫌やわ」
「ひかる……っ」
「あんたが好きです、あんたも俺を好きでいてくれるなら、他は何も要らん。男同士だろうが関係ない。せやから、謝ることなんか何もないんです」

謙也さんの濡れた頬を指で拭う、温かい涙もあっという間に冷たくなった。

「こんな冷えてもうて……」
「光も……ごめんな……こんな寒い中探させて……」
「俺はええです。それよりはよ帰って暖かくしましょうね。風邪ひいてまう」
「ん…………」

ベンチから立ち上がって、謙也さんは上を見上げた。
視線の先には、役目を終えて消灯したクリスマスツリー。

「イルミネーション……消えてもうたな……」
「そうですね……」
「一緒に、見たかったなぁ……」
「来年があります、再来年も……ずっと何度でも一緒に来れます」
「せやな」

そう言って笑った謙也さんの顔が、ぼんやりとした灯りに照らされた。
不意に明るくなった周囲に思わず目を向けると、さっきまで黒一色だったツリーが、色鮮やかに光輝いていた。
豆電球の灯りではなさそうな、神秘的な輝き。

「嘘……クリスマス終わったはずなんに……」
「サンタクロースからのプレゼントかもしれませんね」

なんて、我ながら柄にもないことを言ったと思ったけど、謙也さんはうっとりとツリーを見上げながら頷いた。

「……かもな……綺麗やなぁ。あっ、雪」

ちらちらと降りだした雪にツリーの灯りが反射して、この世のものとは思えない不思議な輝きを放つ。
そんな光に照らされた謙也さんは、その輝きに負けないくらい綺麗やった。
吸い寄せられるように手を伸ばし謙也さんの頬に触れる。
その意味を察したのか、謙也さんはそっと瞼を伏せた。
冷たく冷えてしまった唇に自分のそれを重ねる。
柔らかな唇は直ぐに温もりを取り戻して、俺は少しの間だけその温かさに酔いしれた。
暫くその感触を味わって身体も火照った頃に唇を話して顔を見れば頬を染めた謙也さんと目が合う。

「せや、渡すもんがあるんすわ」
「ん?」

鞄の中に忍ばせた、クリスマスに渡す予定だった謙也さんへのプレゼント。
けれど今は少しでも早く家に帰りたい。
温かい俺たちの家に。

「でも、後にします。はよ帰って身体温めな」
「なんや気になるなぁ」
「後のお楽しみにとっときましょ。雪降ってきたし、風邪ひかんうちに帰りましょうか」
「ん……光」

控え目に手を差し出して、謙也さんは小さく呟いた。

「手、繋いでええやろか……」
「ええに決まっとるでしょ」

差し出した手を謙也さんがぎゅっと握る。

「へへっ……温かい」

そう呟く触れあった謙也さんの手もやっぱり温かかった。
その熱をここに感じられる事に幸せを噛み締めながら、この後の事に思いを馳せる。
謙也さんへの大切な贈り物の出番はほんまはツリーの下でのつもりやったけど、もっと相応しい場所が思い浮かんだから今はまだ潜めておくことにして、俺達は家路を急いだ。






・・・・・・・・・・・・・・・・・




「こんな日にサンタクロースがバカップルに構っとる暇なんかあるかアホ!」
「ユウ君静かに、謙也くんにバレちゃうわよ」
「小春!やってせっかく小春があいつらなんぞの為にツリーを」
「ええのよ。二人が幸せならそれでいいじゃない?せっかくの初デートやもの、これくらいはしたらなね」
「ほんま世話のやける奴やで……」
「あら、散々心配してつけてまわっとったのはどこの誰?」
「別に心配なんかしてへんで!初デートやなんて自慢するからなんぼのもんやと覗いたっただけや」
「そうなん?てっきりあの3人組にちょっかいかけたん謙也くんのためかと思ったわ。でもいくら烏の姿でもあんまり人脅かしちゃだめよ?」
「あれは地べた座って通行人の邪魔したりごみぽい捨てたりしたからな。捨てたごみ返して追っぱらったっただけや、天罰や」
「あー天罰ならしゃあないわぁ、そらあっちが悪いわぁ」
「せやせや!別に謙也の心配なんかしてへん!」
「あらそう」
「…………まあ、心配は、してへんけど……」
「おん」
「アイツが勘違いしたん、俺のせいやし……」
「………ん」
「アイツの前で俺が小春の事好きや好きやって言うてたから、アイツこれが普通やと思って……」
「けど、あの子は謙也くんを受け入れてくれたわ」
「せやな……」
「それに、うちらの加護を受けた二人やで?幸せになるに決まっとるわ」
「おん、せやな!小春っちゅー神様がついとるんや!小春の縁結びで幸せにならんはずないわ!」
「あら嬉しい、おおきに。うちらも帰りまひょか、ユウくん」
「せやな。帰ろ、あ、せや小春一個言うん忘れとったわ」
「あら、うちも忘れとったわ」
「ほな一緒に言おか」


〜Merry Christmas!!〜

2015/12/25up