いつかその日がくるんやろなって思ってた。
恋人同士やもん、手繋いで、キスして、それ以上のことだってする時がくるって。
せやからそん時は、目一杯優しくしたろって決めとった。
慈しんで、壊したりせんように大事に大事にしたろって。
でも、あれ…?この状況ってまさか…。














「謙也さん…」

「んんっ…ふぁ…ひか…」

床に押し倒されて、息もつげないような激しいキスを繰り返す。
今まで何度もキスした事はあった。ディープキスかて初めてやない。
けど、こんな貪るみたいな、意識まで持ってかれそうな激しいキスは初めてで、真っ白になった俺の頭は何も考えられへん。
漸く解放されたと思えば、今度は胸元に顔を寄せて肌を舐められる。
生暖かい舌の感触、背筋が震えた。けど、決して不快な感覚ではなくてむしろ

「ひあ…っ!!あ、んっ」

ぞくぞくして、興奮して、気持ちええ。



このまま身を任せてしまいそうになるけど、ギリギリ残っとる理性が待ったをかける。

「ひ、光っ!」

ピクッと肩を揺らして、俺の胸元に伏せていた顔をあげた光は、えらい艶めかしくて、それでいてかっこよかった。

「嫌…っすか?」

しかも次の瞬間にはきょとんとした顔して首を傾げてきて、めっちゃ可愛え。
けど、落ち着け、冷静になれ、俺。
この流れはどう考えても。


俺の上にのしかかって、俺の身体を愛撫している光。
そら、騎乗位っちゅう体位かてあるけど、なんやもう光の目見ればわかる。
欲情した雄の目、どう見ても光は攻める気満々や。

「あの…俺、下なん…?」

恐る恐る蚊の鳴くような声できけば、いつもは気だるげに細めとる真っ黒な瞳を真ん丸にして、光は心底驚いたような声で聞き返した。

「謙也さん、俺の事抱く気やったんすか?」

そんな純粋にびっくりされてまうとは…。
何とも言えない空気になって、光はそっと俺の上から退いた。
俺も上体を起こして、正座して向かい合った俺達はお互い視線を反らして黙ったまま。
気まずい…なんやこれ。さっきまでの甘い空気はどこいったん。

「すみません…謙也さん、俺…」

「や、俺もその…」

完全に2人とも自分の方が男役やと思っとったみたいで、お互い戸惑うばかりやった。
当たり前のことやったのに、俺等は男同士。どっちかが受け入れる立場になることくらい。


「謙也さん。」

「はいっ!」

いきなり名前呼ばれて、返した声は情けなくも上ずった。
光はといえば、そっと俺の手の上に自分の手を重ねて、じっと見つめてくる。
真っ黒で真ん丸な瞳に、口を開けて固まった俺が映っとる。

「謙也さん、俺謙也さんになら、抱かれてもええよ。」

突然そんなこと言われて、心臓が悲鳴をあげた気がした。
息を吸ってるんだか吐いてるんだかわからない。
そんくらいに俺はもう頭真っ白になってわけわからん。
酸欠の金魚みたいに口をぱくぱくさせながら、漸く絞りだした声は、やっぱり情けなく擦れてた。

「…光は…俺の事…その、抱きたいん…?」

光は、まるで硝子細工でも扱ってるみたいに、そっと俺の頬を両手で包んで笑った。
ほんまに俺の心臓ぶっこわれたんやないやろか…。
そう思ってまう位に騒ぐ鼓動。光の笑顔、今までずっと可愛えって思っとったのに。
光の笑顔をこんなにカッコいいって思うなんて。

「そら、謙也さんの可愛え姿見てみたいけど、謙也さんが俺の事抱きたいって思ってくれとったの嬉しいし。せやから、ええよ。」

そんな言葉のあと、光はまた唇を押しあててきた。
光がああ言ってくれたってことは、このまま俺が光を押し倒してええってことなんやろけど。
段々深くなるキスの最中、俺は光に身を任せて、またそのまま後ろに倒れた。
けど今度は、抵抗なんかせえへん。
心はもう、決まっているから。

唇を離して、光は不思議そうに俺の顔を覗く。

「謙也さん?」

「光…抱いてくれるん?俺の事…」

「え…でも、ええんすか?こっち側嫌なんですやろ?」

「嫌やないよ。びっくりしただけやから…光が嫌やなければ…俺の事抱いてや。」

「ええの?」

「おん。」

返事を返すと、ちゅっ、て、啄むようなキスを何度もされて、思わず笑った。
あちこちに落ちてくる、くすぐったくて、優しい。俺がいつか光にしたろって思っとった優しいキス。
最初はきっと怖いから、怖ないようにそうしたろって思ってた。
まさか自分がされる側になるとは思わんかったけど。
肌を滑る唇が、だんだん熱を持ってくる。
触れたところが熱い。

「謙也さん」

「はぁ…っ……あ…んぅ……っ」

「謙也さんの身体…めっちゃ熱い」

「う…そ……熱いんは、光の方やろ…?」

「謙也さんのが移ったんやで」

「ああっ!はぁっ…やぁ…っ!」


さっきの痺れるみたいな感覚やけど、さっきよりずっと強い快感。
俺男やのに、乳首舐められてこんなに感じるなんて。

「ほら、めっちゃ熱い。」

「あっ、そこ…あかん…あかん…っ」

「ここ弱いんや?可愛え」

そう言って、光は意地悪く笑った。
さっきの優しい笑顔はどこいったん?そう思うけど、そんな表情もカッコええって思ってまう自分も始末に終えない。

「こっちも、もうキツそうやんな?」

「はぁっ!ああっ、や…ああっ!」

光はスラックスの中に手を突っ込んで、下着の上からやわやわと揉んでくる。
なんやもう明らかに濡れとって卑猥な音が耳まで犯しているようで、濡れた下着が気持ち悪いから脱がして欲しいんやけど。
そんな恥ずかしいことよう言わん。

「光…も…それ…」

「なん?言うてくれんとわかりませんよ?」

そこは察しろや!って思うけど、無理な話や。絶対、光はわかっててそんな事言うんやから。

「ん…っ、ううっ…あっ、光…っ」

光の服の裾を引っ張って、堪忍してくれって目で訴える。
俺にはそれが精一杯やった。
光はふぅっと溜息を吐いて、漸く濡れた下着を脱がせてくれた。
勃ち上がった自分のが外気に晒されたのを感じて、半端ない羞恥心が襲ってくる。
いくら男同士でも人に自分のをこんなマジマジと見られることなんてない。
上がった熱が一点に集中していく。
それは光の視線の先で、それが更に羞恥心を煽って、また熱があがる。

「見られて興奮しとる?」

「あっ、や…そんなんと、ちゃう…」

「せやけどほら、ひくひくしとる」

「や、あぁん!!」

光のひやっこい指が、つっと俺のを撫で上げてきて、身体が自分でも驚くくらいびくびく跳ねた。
人に触られんのが、こんなに気持ちええなんて。

「あ…や…ひあぁっ!」

「気持ちええの?謙也さん。」

光は俺のを握り込んで、手を上下に動かす。

「あ…っ、ひあっ…光…もっ、イく…」

「もう?謙也さん早ない?」

「うっさ…っあ!あっ!やあぁっ!」

抗議する間もなく、俺は呆気なく達してしもた。
知っとんねん俺かて、自分が早漏やって事くらい。
けど、しゃあないやん。光めっちゃ上手くて気持ち良かったんやもん。
こんなん我慢しろ言われてもできひん。
バカにされるかと思ったけど、予想に反して光はめっちゃ優しい顔して、額に張り付いた髪を掻き上げてキスを落としてきた。
さらには「謙也さん、気持ち良かった?」なんて可愛い顔して首傾げて聞いてくるから、俺はうんって素直に頷くしかできんかった。
なんなん?さっきまでめっちゃ意地悪な顔してたのに、
このでろっでろに甘やかしてくる子はほんまにあの普段生意気で「うざいっすわ〜」とか「キモいっすわ〜」とか言うてくるあの後輩なんやろか。
なんてほだされている間に、光は俺の放った液体でべたべたになった手を、あろう事か後ろに滑らせてきた。
嘘やろ?冗談やろ?まさか、ほんまに中入れるんか?

「謙也さん…力抜いててな?」




ああ、この子本気や。








そして光は、ほんまに指を中に押し込んできた。

「ああ…っ、は…っう…」

経験したことのない違和感と、圧迫感。
指一本でもこんなにキツいのに、光のなんか入るんやろか。
そんな不安な気持ちもあったけど、それより光と繋がりたい気持ちの方が強いから、俺は息を深く吸ったり吐いたりして、身体の力を抜いていく。
そうすると、そこは次第に柔らかくなってきたのか、二本目の指が中に入ってきた。
そして少しずつ中で動かされているうちに、違和感とは別に沸き上がってくる感覚。
背筋を走る痺れるようなその感覚は、ある一点で一際強い快感となって走り抜けていった。

「ひうっ!?」


びくんと身体が跳ねて、驚いて固まる俺とは対照的に、光は驚きもせんとにやりと笑った。
あかん。なんかスイッチ入ったみたいや。

「ここ、ええやろ?謙也さん」

「あっ、あぁっ!や…そこ…ふぁぁっ!?」

光は俺が反応した場所を執拗に攻めてくる。
こんな気持ち良いこと知らん。
こんなとこ弄られてこんな気持ち良いなんて、知らんかった。

「あっ、あ…っ光…あぁんっ」

これでも気持ち良いのに、俺は段々足りなくなってきて、もっと奥まで突いて欲しくて。
無意識に自分から腰を揺らしていた。

「ふぁぁっ!光っ、もっと…っああ!」

「謙也さんえろ…かわええ」

「ああっ!ひ…っあぁぁっ!」

三本目の指が入ってきて、それをきゅって締め付けたんが自分でもわかった。
信じられへん。あんなとこに指3本入っとるとか有り得へん、有り得へんって思っても実際入っとるわけで。
痛いのと苦しいのと気持ち良いのが混ざって俺の目からは生理的な涙がボロボロ流れとるけど、決して嫌なわけやない。
嫌やないから。

「謙也さん…しんどい?もう止めたい?」

「や…止め…んといて…続けてや…っ」

このタイミングでこの質問、気遣っとるのか焦らしとるのか…
あ、にやにやしとる。嵌められた。
悔しいけど止めてなんてもう言えへん。
光は入れた指を中で動かしてる、てか動かせるほど拡がってるんやろか…そんなら光のもちゃんと入るんかな。
なんて思ってたら、中にあった圧迫感と刺激が急になくなった。

「んっ…あ…」

明らかに沈んだ声が出てまう。
けど、光は俺の頬にキスをして耳元で囁いた。

「謙也さん、入れてええ?」

嫌、なんて言えるわけない。
頷いて、「ええよ」って言うたったら今度は額に軽いキスをされて、かっこよく微笑まれてうっとりしてまう。
まだひくひくしとる俺の後孔に、光のが当てがわれる。
そして、ゆっくりと中に入ってくる。
指三本の比やなかった。
痛くて、息すら止まるほどの圧迫感。

「っあ――――――!」

「謙也さんごめん…ごめんなさい…」

謝りながら、光は俺の中にどんどん入ってくる。
謝んなくてええのに、俺が望んだことなのに。
光は俺の目から零れる涙を何度も拭いながら、何度も謝った。
大丈夫やって、俺は平気やからって言ったりたいけど、まともに声も出せなくて、掠れた声で愛しいその名を呼ぶのが精一杯や。

「ひ…かる…、ひかる…」

だからせめて、この想いが伝わるように、
光に愛されて嬉しい、光と繋がって幸せやって。
そんな想いを込めて、名前を呼ぶ。何度も、何度も。

「ひかる…っ」

「謙也さん…っ」

何度目かのその名前を紡ごうとした時、唇ごと光に食べられた。
名前に込めた俺の想いも、まるごと受け取ってくれたような気がした。
そして光の唇からも、俺の名前に込めた光の想いが吹き込まれてくるようで、俺の中に満ちた溢れる程の幸せが、涙と一緒にこぼれ落ちた。







「ねえ、謙也さん」

「ん?」

「ほんまに良かったん?」

事後の甘ったるい空気の中で、光は不意に呟いた。

「後悔しとらん?」

「アホ…嫌やったらとっくに蹴り飛ばしとるわ。」

素っ裸で今もこうして抱き合ってるのに、後悔なんかあるかっちゅう話や。
そう言ったったら、光は甘えるように俺の胸に顔を埋めて、頬をすり寄せてきた。
意地悪な顔したりかっこよく頬笑んだり、こんな可愛え顔したり。
光の一挙一動が俺を虜にする。

「せやかて、謙也さんこのまま一生童貞やで」

「なっ!」



せっかく良い雰囲気やったのに、こんな時でも憎まれ口かいな。
…でも、あれ?これって、俺は一生光に愛されてくって意味でええんかな?

そういうことなら



「……それもええかな。」


思わずそう呟いたら、光は一瞬目を丸くしたあと、柔らかく微笑んだ。
いつかくるんやろうなって思っとった日は俺の想像と逆の形できてしもたけど
優しくされて慈しまれて愛されて、ああ、こんな形でも、光が相手なら俺は幸せなんやな。
そう想いながら、俺はぎゅっと小さな光の身体を抱き締めた。


〜fin〜