桃城君と好敵手という関係から別方向に発展して、所謂恋人としてのお付き合いを始めて数ヵ月。
告白、手を繋ぐ、キスをする、とここまで順調に恋人関係を育む俺達だけど、その更に先にはまだ進めずにいた。
今日までの関係も勿論心地良いし気に入ってる。
デートと称して遊んだりテニスをしたり、家に招いたり招かれたり、ゲームをしたり映画のDVDを見たりじゃれあって抱き締めあってキスをして。
彼と過ごすそんな時間に不満なんてない、心地よい関係だと思うしとても幸せだと思う。
元々、こんな関係になる事すら絶望的だと思っていたんだ。
そう思えば、今は信じられないくらい幸せな関係。
だけれど、どうも俺は自分が思っていた以上に欲張りだったみたいだ。
彼の部屋で二人きり、他愛ない会話やゲームをして過ごす休日。
おあつらえ向きに今日はご家族は留守らしく二人きり。
家族は夜まで帰ってこないんで気楽にしてくださいね!なんて爽やかな笑顔で告げた彼とは全く違う種類の笑顔を返す俺。
こんなに気持ちが昂ってる時に、こんな絶好のシチュエーション。
期待しない方が無理だろう?






二人きりだというのにやたら賑やかな時間を過ごしたのは借りてきたDVDのせいだろう。
アクション映画の盛り上がりどころは見ているこっちにも熱が入る。
それにコメディ要素もプラスされ笑いあり、感動ありとなればこちらもそれなりに盛り上がりたくもなる。

「はぁー、面白かったね」

「っすね!これ来月続編公開っすよね?」

「あ!そうだ、CM見た気がするな……一緒に見に行くかい?」

「おっ!良いっすね!」

「じゃあ来月の予定後で連絡するから」

「はい!」

さらっとデートの予約を取り付けつつ、見終わったDVDの再生が終わり画面がブラックアウトすると、賑やかだった空気が一気に切り替わる。

「あ……」

「っ……」

目が合って数秒。
最近はなんとなく、言葉がなくてもお互いその空気を察する事が出来るようになった。
どちらからともなく顔を近付けて、目を閉じる。
桃城君とのキスは触れ合うとかそんなレベルは越えたもので、口内を彼の舌で掻き回されたらもうキスだけで眩暈がする。

「ん、ちゅっ」

「んっ、はぁ…っ、ちゅっ」

角度を変えて何度も重ね合う唇の柔らかさと口内の熱とで身体が熱くなる。

「はぁ…っ」

「っは……、……あ、その……」

こんなキスは初めてではないし、何度か繰り返した行為だけれど、いまだに身体を離した後の照れ臭さや焦燥感は拭えない。
いつもどうしたら良いかわからなくて、どちらからともなく関係ない話題で煙に巻く。
けれど、今日は……。

「あ、の、飲み物、ないっすね……。取ってきますッ!」

「ま、待って!」

たぶん、帰ってきたら桃城君はいつも通り。
今を逃したら、今日はもう言えなくなってしまう気がした。
ギリギリで掴んだTシャツはちょっとでも力を緩めたらすり抜けていってしまう気がして。
縋るように握り締めた手が震える。

「桃城君……あの、あのさ……俺、その……もっとしたい、な……」

「え……もっと……?」

「その……キス、以上のこと……」

「そ、それって、えっちとか……?」

「う、うん……」

拒絶されたり引かれたりしたらどうしよう、そんな迷いもあった。
けど、やっぱり好きな人ともっと色々したい。
恐る恐る桃城君の反応を窺うと、彼は耳まで赤く染めて俺の両肩に手を置いて、真剣な顔で聞いた。

「その、それって、千石さん的にはどっちがいいんすかっ?!」

「えっ!?」

「だから、その……下か上かって話……」

「あっ、そっか、そうだよね……っ」

俺も桃城君も男なんだから、どっちが抱かれるのか決める必要がある。

「あ、あの……桃城君は、俺の事抱きたいと思う?」

「はい!」

間髪言わずにそう返ってきて面食らう。
迷いのない声だった。
男である俺を抱く事に躊躇や嫌悪感を微塵も感じさせない真っ直ぐな言葉だった。

「あっ、すみませんつい……っ!」

「いや、あの……その……俺も桃城君になら……」

「えっ!?」

「桃城君さえ……よければだけど……」

「本当に、いいんすかっ?」

肩に置かれた手に力がこもり、見据えるその真剣な表情に胸が高鳴る。
一線を越える瀬戸際で、彼の目は俺に引き返すなら今だと最後の警告をしてるように感じられた。
けど、俺はもう覚悟はできてるんだ。

「うん」

迷いなく頷くと、桃城君は俺の背中に腕を回して強く抱き締める。

「千石さん……」

「あ……っ」

今までだって何度もそう呼ばれてきたのに。
その声で耳元で囁かれたら身体が火がついたように熱くなった。
普段の彼の無邪気な声とも、ネットを挟んで対峙した時に聞く挑戦的な声とも違う。
熱っぽくて、声だけで背筋がゾクゾクする。
そんな声に戸惑っている間に、首筋に彼の息が掛かって生暖かいものが肌を滑るのを感じた。
そのまま首筋にチリッとした痛み。
これは所謂キスマークというやつだろうか。
学ランならぎりぎり隠れるけど、ユニや体操着に着替えたら見えちゃうかも。
なんて一瞬思ったけど、自分の身体に彼のつけた印が残るのは悪い気はしない。

「あっ、んぅ……っ」

「声、可愛いっすね」

「あっ、や……っ」

無意識に出た自分の声が信じられないくらい甘ったるくて、恥ずかしくて堪らないのに。

「あ……ぁ……っ」

抑えることが出来なくて、意識すれば段々身体が敏感になっていく。

「ひゃっ!?や、あ……っ、待って……っ!」

「ここ、弱いんすか?」

不意に桃城君の手がシャツの中に滑り込んできて、脇腹に触れられて大袈裟に身体が跳ねる。
指は肌を滑って脇腹から胸に移動していく。
触られている場所がシャツで見えないからか、指が滑るその感触に余計に意識が集中してしまって、指先が乳首に触れて軽く摘ままれると自分でも驚くほど身体が跳ねた。

「あっ!んぅ……っ」

「凄い敏感っすね」

「ちが、あっ、俺、擽られるの弱くてっ、んぅ……っ」

「それって感じやすいってことじゃ……?」

「違うってばぁっ!あっ、やぁ……っ!」

「でも、濡れてきてる」

言われて下半身に視線を落とすと、ズボンの中心が若干湿り始めてる。
顔が一気に熱くなって思わず声を荒げた。

「もう!待ってって言ったのに君が脱ぐ前に触るからだろ!」

「す、すんません!」

さっきまでの勢いはどこへやら、叱られた犬みたいにしょんぼりした桃城君にぺたんと伏せた耳と下がった尻尾が見えた気がした。
その姿に、なんだか照れ隠しの怒りも抜けていって、思わず吹き出してしまう。

「……ぷっ、あははっ。もー、可愛いなぁ……」

「千石さん……」

「ごめん、怒ってないよ……それより下着濡れて気持ち悪いから、続きしよう?」

「あ、は、はいっ!」

下着を脱いで下半身が露になる。
さっきまでの愛撫で身体は既に熱くて、立ち上がってしまっているそれを見られるのは恥ずかしい。

「あの、触って良いっすか……?」

「や、野暮なこと聞かないでよ……」

さっき怒ったから慎重になってるんだろうか。
けど、こんな姿まで晒してるからにはもちろん拒否なんかしない。

「触って?桃城君……」

「は、い……っ」

緊張しながら伸ばされた手が俺のに触れる。

「んっ、あ……っ、あっ、ぅ……」

自分以外の人に触られることなんて初めてで、彼の手が動く度に身体が反応して気持ち良くて声が我慢できない。

「すげぇ、可愛い……千石さん……」

「んぁっ、あっ、やっ、あぁ……っ」

耳元で囁かれる声や言葉、全部が俺を昂らせて興奮する。

「あっ、もう、イく……っ!」

自分でするよりずっと気持ち良くて、いつもよりもだいぶ早く達してしまった。

「はぁっ、あ…ぅ……、……っ!」

頭が真っ白になって放心してたらベッドに押し倒されて我にかえる。
見上げた先には天井と、見たことのない切羽詰まった表情の彼の姿。

「千石さん……っ」

「っ!」

その目に、心臓を鷲掴みにされたような気がした。

「桃城、くん……っ」

覚悟は決まってた、けど今彼の目を見て改めて強く感じた。
俺はこれから彼に抱かれるんだって。
心臓が煩いくらいに騒ぎ出す。
これは、この先に待つ出来事を恐れているのか、それとも期待しているのか。
今の俺には判断がつかないくらいに、頭が真っ白だ。

「ひゃっ、んん…っ」

桃城君の指が奥まった場所に滑り込んでくる。
俺が出したものが塗り込まれてるのがわかる。
そしてゆっくりと、彼の指が中に入ってくる。

「んあっ、はぁっ、あっ」

「痛くないっすか……?」

「ん、平気、だけど、変な感じ……っ、んぅ……っ」

「すっげ、千石さんの中やらかいし、熱い」

「実況しないで!恥ずかし……っ、あっ」

「だって本当だし……言うと千石さんの反応可愛いんすよ」

「やうっ!か、可愛いって……っ、俺、男だし、華奢でもないし……」

「千石さんは可愛いっすよ」

男として、それは喜んで良いのだろうか?身長や体格、容姿や声を加味しても自分が可愛らしいとは程遠い自覚はあるのだけれど。
壇くんみたいな身近に居る可愛い男子代表みたいな子と比べてみれば尚更だ。
でも、尖らせた唇に啄むように軽く触れるキスをされて「そういう顔も可愛いっす」なんて満面の笑顔で言われたら、なんだか彼にそう言われるのも悪くない気はする。
我ながら溺れてるなぁ。なんて考えてる間に指が増える。

「あっ、く……ぅ……っ」

一本指が増えるだけで、さっきより圧迫感が増した。

「んっ、はぁ…っ」

「さすがにこのままじゃ2本はキツいっすかね……」

「ん……だいじょ、ぶ……」

「んー……ちょっと待ってください」

なにか考えるそぶりを見せた後、一度指が抜かれる。

「んっ」

「やっぱちゃんとしないと……怪我とかさせたくないっすから」

そう言いながら持ってきたのは透明な液体の入ったボトル。

「あれ……?それ新品?」

「あ……その……いつか使う日がくるかな?なんて……?」

「それって俺と?」

「あー、その、はい……っ」

そんな素振りは見せなかったのに、これは意外な事実だ。

「その、それなりには、調べたんで……いや!無理矢理とかそんなつもりはなくて!でもいざという時ないと困っ、あっ!あー、その!」

説明すればするほどにどつぼにハマっているけれど、要するに彼も俺と同じくこういうことを望んで調べたり悩んだりしてくれていたわけだ。
下心を読み取られてばつの悪そうな桃城くんが可愛くて、思わず小さく笑った。

「そんな慌てなくていいって」

「うっ……その……すみません……」

何に対してのすみませんなのだろうか。
こういった展開に対しての備えだとしたら、それはお互い様だし寧ろこの場で代用品探しに奔走しないで済む事に感謝したい。
それに、俺ばかり突っ走ってたわけじゃないことに安心もしてる。
「だから、謝る必要ないって。

現に役に立っただろ?」

「……邪なこと考えてたって、引いてません?」

「お互い様だってば。俺だってそれなりに、考えてた、よ……?」

自分の下心を曝け出すのは中々に恥ずかしくて、語尾が尻すぼみになっていく。

「それよりさ、さすがにこの格好で何時までも放置は、恥ずかしいんだけど……?」

中途半端に中断されて下半身丸裸な俺はそろそろ羞恥心が限界だ。

「す、すんません!じゃあ、続き……」

「うん……」

桃城君が粘度を帯びた透明な液体を指に掛けて再び指を挿入する。

「うぁっ、あ……っ」

さっきより滑りがよくなった指は難なく根本まで俺の中に埋まった。
見えないのに、内壁を広げるように中で指が開いてるのがわかって、やたら恥ずかしい。

「ふ、うっ、あぁ……っ」

内側の粘膜を指で擦りながら丹念に解されていく。
ラケットを握るあの指が、自分の手と繋いで、絡めた事もあるあの指が今俺の中にあるなんて、何だか夢みたいな気がしてくる。

「ひっ!ンんぅっ!あっ、っ?」

そんなふわふわとしていた思考は全身を走り抜けた衝撃に掻き消された。

「あっ、ひぅっ!ーーーっ!?」

急に電気が走ったみたいな感覚に襲われて息が詰まる。
今の感覚はなんだったのか、頭が追い付く前にその疑問は別の衝撃に掻き消された。

「いっ、あ……っ!」

たぶん指がまた一本増えたんだ。

「はっ、はぁっ、ぅ…、く……っ」

指三本でこんなに苦しいなんて、途端に全身から汗が吹き出す。

「あっ、いぅ……っ、はっ、はぁっ」

浅く早く呼吸をして、少しでも力を抜くように努める。
けど、頭が真っ白になって息をするだけで精一杯だ。

「千石さん……っ」

「っ!」

萎縮したように動きを止め指を抜いた彼の腕を反射的に掴む。

「やめないで……っ」

「けどっ!」

「やめないでよ……お願い……やめないで……っ」

涙が頬を伝う感触で、自分が泣いてるのがわかる。
けど、その涙がこの身体の痛みから出たものなのか、胸の痛みから出たものなのかはよくわからない。

「大丈夫です、千石さん……だから……」

桃城くんの片手が頬に添えられて親指がそっと涙を拭う。

「そんな顔しないで」

困ったように笑う彼の目はなんだか凄く優しくてあったかくて。
あやされてるみたいに微笑まれたら頷くしかない。

「うん……」

「ちょっと焦りすぎました。力抜いて。ゆっくり息吐いて」

「うん」

息を大きく吸って、ゆっくり吐いて、身体の力を抜いていく。
再び入り込んできた指は2本だろうか。
さっきほどの苦しさはない。

「はぁ……っ、あ……んっ」

中を拡げるような動きで、桃城くんが俺の後孔をゆっくり、丁寧に解していく。

「痛くない?」

「だい、じょぶ……っ」

「もう一本、指増やしますね」

「うん」

今度は事前に言ってもらえたから、俺も深く息を吐いて身体の力を抜く。

「んん……っ、ぅ……っ、はっ、あ……っ」

圧迫感はあるけど、さっきに比べたら痛みも苦しさも幾分か軽い。
本当に少しずつだけど、それでも今この瞬間にも、桃城くんの手で自分の身体が変わっていくのがわかる。
そう考えたら堪らなく嬉しくて、早くその先を知りたいと思った。

「桃城くん、も、いいから……っ」

「えっ、でも」

「大丈夫だから、桃城君のこれ、俺の中に挿れて……?」

桃城くんは意を決したように頷く。

「痛かったら、言ってくださいね」

下着ごとズボンを下ろすと、桃城くんのはもう立ち上がってる。
心臓が高鳴って恥ずかしさと緊張で頭が真っ白だ。
後孔にまたローションが掛けられて、ヒヤリとした感覚の中に熱い先端があてがわれる。

「ふぁ……っ、んぅっ!」

指とは全然違う熱と質量を感じて、つい息を積めてしまう。

「千石、さん……落ち着いて、ゆっくり息吐はいて」

「う、ん……はぁ、は……ぅ……っ」

少しずつだけど力が抜けて、徐々に桃城君のが奥に入ってくる。
内臓が押し上げられるような圧迫感は苦しいけど、同時に胸に溢れる幸福感でいっぱいだった。

「千石さん…っ大丈夫っすか……?」

「あ、あっ、凄い、熱いっ、アッ、はぁっ」

普通ならあり得ない感覚で、気持ちいいとは言い難い。
自分の中に、自分以外の熱が入ってくる痛みと違和感、初めての感覚に頭が働かなくなってくる。
でも彼とする行為なら、自分が痛くても、苦しくても幸せだと思ってた。

「ひうっ!」

そんな思考を自分の声が吹き飛ばした。

「あっ……え……?」

自分で自分の声に驚いて、頭が真っ白になる。
桃城君が動いた拍子にある場所を掠めた瞬間、全身に電気が走り抜けたみたいに身体がビクンって跳ねた。
でも、その感覚が何かはわからなかった。
痛みでも、苦しさでもない。
今のは一体……。

「千石さん?」

俺の反応に驚いた桃城君が顔を覗き混もうと身体を屈める。
その動きでさっきの場所にまた先端が掠めて身体がまた勝手にビクビクと跳ねる。

「あうっ!はっ、あぁ……っ!」

知識としては知っていた。
そういう行為については調べてたから、この身体の中に性感帯があるということは。
ただ実感がわかない、けど、これはたぶん快感なんだ。
体内の、普段なら決して触られる事のない場所が桃城君ので拡げられて、突かれて。
こんな風に気持ちいいと感じるなんて知らなかった。

「やぅっ!そこ、あぁっ!だめ…っ」

「え、駄目って?!」

「あぅっ、まって、だめ、あっ、アッ、怖い…っ、や…っ、あ…っ」

「こ、怖いん、すか?」

「うっ、あ、だって、こんなとこ、気持ちぃの、知らな、あぅ…っ、んんっ」

「あ、その、辛かったらいったん」

「いやっ!止めないで、やだぁ…っ」

もうどうしたらいいのか、どうしたいのかわからない。
自分でも知らない自分を暴かれて、曝け出すのが怖い。
そんな自分の姿に幻滅されるのが怖い。
男に抱かれてこんなに感じて、怖いけど気持ちよくて。
見られたくないって思うのに、口からは真逆の言葉が出る。

「あぅっ、もも、しろくん…っ、止めないでぇ……っ」

「あ、だ、大丈夫っ、す…っ、待ちますから」

「あっ、あ……っ、ふぁ…っ、ん……」

暫くの間、桃城君はじっと動かずに俺が落ち着くのを待っていてくれた。
少しずつ呼吸が落ち着いてきて、彼の熱が馴染んでくる。

「はぁ…っ、は……ア…っ」

「大丈夫、すか……?」

そう言って、優しく汗で額に貼り付いた髪を払ってくれる。
その表情はとても優しくて、軽蔑や幻滅は感じられない。

「ぅ……あ……っ」

包み込むように頬を撫でる手のひらが温かくて気持ち良くて、思わず目を閉じてその手に頬を擦り寄せる。
そうしていると、なんだかとても安心した。
けど、桃城君は時々苦しげに声を漏らす。
見れば彼の額は汗がにじんでて、だけどそれを隠すように微笑んでいてくれる。
俺だって男だ。
直接性器に刺激を受けたまま、達せない苦しみがどれ程のものかわからないわけがない。
それでも彼は待っていてくれたんだ。

「あ……はぁっ……桃城、くん……も、動いて、大丈夫……」

「でも……まだ……」

俺の言葉に、彼の瞳が一瞬さっきみたいな欲情の色で揺れた。
けど、こんな状況でも、俺を心配するようにそう言ってくれる。
彼が俺をどれだけ大事に思ってくれてるかわかる。

「大丈夫だよ……だから、ね……?」

「あの、俺止まれないかもしれないんで……嫌だったら蹴飛ばしてください」

「大丈夫……君になら、何されてもいいよ……」

「っ!あんま煽んないでくださいよ!」

「あははっ、だって、本当なんだよ……?」

「もーっ!泣いても止まれないっすからね!」

桃城君はそう言ってから、俺の反応を探るように腰を動かした。

「んぁっ!は、あ…っ、ア…っ!」

「くっ、ぅ」

「あっ、アぁっ、は、ぁ……っ」

あんなこと言いながら、やっぱり気遣ってくれるんだ。
だから、たぶんきっと、君がこんなに優しいから。
痛いとか苦しいとかもう全然感じなくなって、気持ちよくて幸せで。
だから無性に今、それを伝えたくなった。

「桃城、くん……っ、俺、君が、大好きだよ……っ」

月並みな言葉だけど、俺の気持ちは全部この言葉に詰まってる。

「っ!千石さん……っ」

「んあっ!はっ、あっ、アァっ!」

激しく肌がぶつかる音と、桃城君の息遣いや、俺を呼ぶ声、頭の中がとにかく真っ白で、上り詰めてくる快感にただただ、酔いしれる。

「あっ、アっ、ひぅ!」

さっきの場所を突き上げられて、目の前がチカチカして。

「あっ、も、イクっ、あぁーーーっ!」

「くっ!」

全身が小さく震えて、爪先でシーツを掻いて指に力を込める。
込み上げてきた熱は勢い良く爆ぜて胸元を濡らして、彼の熱が体内で広がるのを感じた。

「はぁっ、あっ……はぁ……」

熱いそれがだんだんと俺の体温に馴染んで、なんだか本当に一つになったみたいで堪らない幸福感を感じて、言葉にならない気持ちが代わりに涙になって溢れる。
止まらないそれを拭う桃城くんの指の感触も困ったように笑う表情もさっきと同じだけど、この涙はもう、さっきまでとは違う。

「桃城くん……、キス……して……?」

「はい……千石さん……」

「ん……」

抱き締めあって唇を重ねたらもう俺達の間には少しの距離もない。
暫くの間深いキスに酔いしれて、名残惜しく思いながらも唇を離す。
桃城くんのが中から抜けてもまだ胸がいっぱいで、何も言えないでいると桃城くんの腕に強く抱き締められた。

「なんか、気のきいたことなんも出てこないんすけど……っ」

「うん?」

「千石さんとこういう事出来て、すげぇ嬉しい」

「……う、ん……俺も、嬉しいっ」

桃城くんの背中に腕を回して、衝動のままにもう何度目かわからなくなったキスを交わす。
そして唇を離して、やっぱり見つめ合うのが恥ずかしくて、だけどこの甘くて幸せな時間をもっと味わっていたくて。
いつもみたいに適当な話で煙にまいてこの空気を壊してしまいたくなかった。
だから今、一番言いたいことを言葉にする。

「……あの、さ、また、しようね?」

「はいっ!」

間髪入れずに返ってきた返事に、照れ臭さを誤魔化すみたいに額を合わせて二人して笑った。



2017/1/31 up