心が生まれたあの時から、俺は彼のために在ろうと決めた。
彼が幸せになるのなら、どんな試練でも耐えようと決めた。
いずれ彼が誰かを愛したなら、それを祝福しようと決めた。
彼が望むなら自分の存在すら消しても構わないと思った。
でもできるなら俺がこれから先もずっと傍に居て、彼を幸せにしたりたいと思ってた。

そんな願いは、叶わないと思ってた。











「ただいま、謙也さん。」

「光お帰り!お風呂にする?ご飯にする?」

「ご飯で。」

そう言って微笑んだ光に、俺も笑顔を返す。
ちょっと色々あったけど、俺達は誤解を解いてまた前のように戻る事ができた。
けど、前と違うんは。

「その前に。」

「光……っ」

ちゅっ、と音を立てて、唇に触れるだけの軽いキス。
お互いの想いが通じあった今、俺等は晴れて恋人同士や。
光は結構ストレートにこういう事をしてくるから、俺は常にドキドキしっぱなしやった。
前と違う事、それは俺等が恋人になったこと。
そしてもう一つ。

「ほんま、心臓壊れそう……」

「そう簡単に壊れませんて。」

「せやかて、人間になってから俺いっつもこんなんやで!」

もう一つは、俺が光と同じ、人間になったこと。
人形やった俺は色んな事が初めてで、不安な事がいっぱいや。
もう俺に、前のような魔法の力はない。
人間になったあの時に、その力は消えてしまったから。
けれど光は、そんなものは要らないと言ってくれた。
前みたいに笑って出迎えてくれたらそれでいいと言ってくれた。
その時の光の笑顔に、鼓動が信じられないくらいに速くなったのを、今も覚えてる。

「俺は謙也さんがきてからずっとこんなですわ。」

そう言って、光は俺の胸に耳を押しあててきて、鼓動がまた速くなる。

「ひ、ひか」

「せやから謙也さんも、もっと俺にドキドキしてくださいね。」

もう充分ドキドキしとるで!謙也さんはいっぱいいっぱいやで!!
けどこんなんは、まだ序の口やった。
愛を育む行為にまだ先がある事を、この時俺はまだ知らんかった。




人になって数ヶ月、俺は人形の時にはわからなかったたくさんの事を光に教えてもらった。
食べ物の味や触ったものが温かい事、冷たい事、柔らかい事、硬い事。
運動したら疲れる事や苦しい事、でも心地よくて楽しくて、汗をかいたり暑かったり涼しかったり。
色んな事を教えてもらった。
そして今、俺は光に人の身体の新しい感覚を教えてもらうところらしいんやけど。
だがしかし、これは一体

「どういうことやねん……」

光に押し倒されて、剰え上に乗っかられて身動きがとれへん。

「どういうことて、こういう事っすわ。」

「んっ」

光の唇が俺の唇に重なる。
ここまではいつもやっとることやけど。
薄く開いとった唇の隙間から滑り込んできた生暖かい感触に、背中を何かが走った感じがした。
口の中を舌で掻き回されて、身体の力が抜けていく。
こんなキスは初めてで、頭が真っ白になった。

「ふっ、んんっ、う…ん……っ」

息ができなくて苦しくてでもなんか気持ち良くて、怖くなって光をトントンて叩くと、漸く解放された。

「はっ、あ……っ、光……っ、」

「謙也さん、鼻でも息できるやろ?」

ああそうか、て納得しかけたけど、いきなりこんなんされたらびっくりするやろ。
こんな、キスがこんな気持ちいなんて、こんなキスがあるなんて初めて知った。

「光……これ、なんなん?」

「ディープキス。キスにも色々あるんすわ。気持ち良かったやろ?」

「そ、そんなこと…」

恥ずかしくなって、思わず顔を反らす。
けど、心臓はドキドキして、治まってくれない。
身体も暑くて、なんか変な感じがする。

「気持ち良くなかった?けど、ここは起ってますよ?」

「え、あ…っ!?」

言われて見てみれば、ズボンの中で足の間にあるものが若干膨らんどるのが見えた。
なんやこれ、なんやこれ!?意味がわからなくて、めちゃくちゃ怖い。

「嫌…っ!なんやこれ!?いや…っ」

「っ!謙也さん!?」

「俺変や……っ!こんな、こんな……っ!」

「落ち着いてください、変やないですから。男なら普通のことですから。」

「普通…?俺変やない?」

「大丈夫っすよ。俺もなりますわ。」

そう言われて安堵する。光も同じようになるんや。

「これ、なんなん?」

「気持ち良ええとなるんすわ。俺、謙也さんのこと気持ち良くさせたりたくて。けど嫌でしたよね……すみませんでした。」

光が心底申し訳なさそうな顔をして謝ってきて、胸が痛くなる。
そして俺は気が付いたら、離れようとした光の腕を掴んでいた。

「謙也さん……?」

「い、嫌やない……っ、初めてで怖かったけど、嫌やないで!」

「謙也さん」

「俺、何もわからんけど、自分の身体のこともようわからんけど、光が教えてくれること、知りたいから……せやから……続き、して……?」

「ほんまに、ええの?痛いかもしれんで?優しくできひんかも……」

「ええよ、どんなことでも、光とやったら……」

もう一度、光にベッドに押し倒される。
そしてそのまままた深いキスをされる。
さっき光に教わったように鼻から呼吸をして、何度も角度を変えて口の中を舐められる。
俺も光の真似をするように舌を動かしたら、光の舌が俺のに絡むように動いてきて、頭がくらくらする。

「はっ、あ……っ、ふうっ、ん…っ、」

「んっ、謙也さん……」

服の中に、光のひんやりとした指が滑り込んできて身体がビクッて跳ねた。

「あっ!んぅ……」

背中がゾクゾクする、身体が熱くなる。
自分の声とは思えない声が勝手に漏れて、恥ずかしくて思わず口を押さえた。

「謙也さん、声抑えんで。」

「けど、声…恥ずかしゅうて……」

「謙也さんの声、聞きたいんすわ。力抜いて、気にせんと声出してください。」

「ん……わかった」

光が言うように手を退けて、身体の力を抜く。
シャツのボタンを開けられて曝け出された肌に、光の指が這っていくと、そこが熱を持ったみたいに熱くなった。

「うぁ…っ、は、あぁ…っ」

心臓が今までにないくらい激しく動いて、運動もしてないのに息が荒くなって。
知らない感覚ばかりでどうしたらいいかわからない。
そんな中、光の指は俺の胸にある突起を摘んできた。

「あぁんっ!」

その瞬間、身体が自分のものやないみたいにビクンと跳ねた。

「あ、乳首感じます?」

「感じる、て?」

「触られて気持ちいいかってこと。」

「よくわからんけど……」

「ほなもうちょっと弄ってみましょうか。」

「え、まって、あぁっ、ひぁ…っ」

クリクリ捏ねるみたいに触られて、身体がむずむずする。
そのうち光は指で触ってない方の乳首に顔を近付けてきた。
何すんのかと思ったら。

「や、ひぁっ!」

生暖かい濡れた感触。
舌で舐められた。

「ひ、光……っ、なんか…身体、変……っ」

度重なる光の行為に、頭がついていかない。
下半身が圧迫されて苦しくて、初めての感覚が不安で堪らない。

「あ、濡れてきとる」

「や、何……っ?」

光の言う通り、ズボンに染みができとって、その様子から自分が出したもんで濡れとるってことはわかった。
けど、漏らしたつもりはなかったのに。

「ど、どないしよ……光…俺……っ」

「大丈夫、大丈夫やから。気持ち良くなると出るんです。洗えばええから、な?」

優しい声に優しい言葉、光の笑顔は俺の中の不安を溶かしてくれる。

「おん……」

「ズボン、苦しいやろ?脱ぎましょ。」

「えっ!?ぬ、脱ぐん?」

「でなきゃ触れないですし。」

「触るん!?」

こくりと頷くと、光はこてんと首を傾げた。

「嫌ですか?」

「嫌や、ない……」

そう言うたら、光は嬉しそうな顔をして俺のズボンに手を掛けて下着ごとおろす。
ズボンを押し上げる程やったおれのちんこは、見たことないくらい起ちあがっとった。
あろう事か光は、自分でも触るのを躊躇うそれに躊躇なく手を伸ばした。